年金支給額が三年ぶりにアップします。
これだけ上がる
上がるのは2023年4月支給分から、実際は6月15日に振り込まれる分からです。23年度中に68歳以上になる人は1.9%、67歳以下は2.2%のアップです。
68歳単身者で支給月額150.000円だとすれば、23年度は152.850円です。
ここ数年年金支給額は上がってないし、でも最近物価もあんまり上がってなかったし、ま仕方ないか、って思ってる皆さん。そうもいってられないのがここ半年の物価上昇、かつての「狂乱物価」という言葉を思い出すほどです。2%じゃ足りんけど政府もちょっと考えてくれたんだな、と思いがちですがそれは早合点。
900円はどこへ
年金支給額は、大雑把にいうと物価の変動率に基づいて決定されます(ホントはもっと複雑怪奇な計算ですが)。昨年の全国消費者物価指数は2.5%の上昇でした。じゃあ153.750円じゃないの、900円はどこいったの、なんで1.9%なの、という話です。
ここで「マクロ経済スライド」制度が登場です。来年度のマクロ経済スライド率はマイナス0.3%、過去のキャリーオーバー分がこれもマイナス0.3%、あわせてマイナス0.6%、だから2.5%ではなく1.9%なのです、キャリーオーバー分ってなんですか、宝くじの仕組みですか。
マクロ経済スライドとは
「マクロ経済スライド調整率」=①日本中の年金被保険者数の近年の「変動率」+②平均余命の伸び率、です。①は人口減少が確定的ですから将来にわたってマイナスが予想されます。さて「平均余命」は増えているからプラスだろう、と思うでしょうが実はマイナス0.3%固定値です。寿命が延びるのはマイナスなんですね。将来的に保険料を払う人数が減って、年金を受給する人数はまだまだ増えていく、だから何とかしなくちゃ、と考え出されたのがこのマクロ経済スライド。何かむつかしい経済学の用語みたいですが要は年金支払い額抑制の仕組み。なんだか専門用語を駆使して難解な計算をするようですが、年金受給額が長期にわたって物価上昇を確実に下回るよう仕組んだのです。
なんでキャリーオーバー
来年度は①=0%(変動) ②=ー0.3%(固定)でマクロ経済スライド調整率はー0.3%です。これで物価上昇が無かったら年金額はマイナス計算になってしまいます。これはさすがにマズイということでマイナスになる年はスライド調整は実施せず、しかしチャラにはならず繰り越していくことになり、これが「キャリーオーバー」です。過去二回キャリーオーバーが発生しそれが合計-0.3%。だから今年のスライド率は-0.6%になったのです。さすがに物価上がらんかったから年金下げます、とよう言わんけど、物価上がったらそれまでの下げ分はその時下げてもらいます、ということ。巧妙といえば巧妙。
年金の将来は
物価が上がれば年金もその分上がらなければ生活の切り下げは必至。しかしこのマクロ経済スライドが誕生し、年金給付水準の長期切り下げは確定しました。しかも複雑かつ難解な制度を構築し、ダイレクトに年金切り下げが表面化しないように仕組まれています。年金の仕組みが将来にわたって安定したものになるよう議論するのでなく、「年金危機」を一方で煽り立て他方で議論の目を覆うような姑息な「マクロ経済スライド」を導入し、今年の私の年金はいくらになるのか、ということがほとんどの人に理解できないようにしてしまっっているといわねばなりません。