
フランスの非正規は
子供を事故で失った女性が、加害者男性の傷病休秘書代替有期契約労働者として入り込み、男性家族を皆殺しにして復讐を果たすという怖いフランスのドラマです。
傷病秘書が復帰して有期契約期間が終了した女性に、「正社員にならないか」と上司が聞く場面があった。
フランスでは、有期契約は特定の状況下でのみ認められる例外的な雇用で、無期契約が標準的な雇用形態とされている。この上司はともかくも無期契約雇用を申し出る他無かったようである。
同時に有期契約雇用と無期契約雇用の間には労働条件に格差は無く、同じ待遇が原則となっている。
一方日本では有期契約雇用に理由は要らない。フランスの女性も日本では有期契約雇用延長がせいぜいのところであっただろう。
拡大する非正規と待遇格差
こうして大量の有期契約労働者が作り出され、無期契約労働者と比して著しく低位な待遇におかれている。
違法な労働者供給を公認した労働者派遣業合法化を皮切りとして、今日ではかつての日雇い労働市場を彷彿とさせる「スキマバイト」、プラットフォーム労働などITを駆使した新しい不安定就労形態が次々に出現している。
「氷河期世代」と呼ばれる膨大な非正規雇用労働者が生み出され、いまや政府が全国紙一面(6月26日朝刊)を使って「就職氷河期の支援策続々拡充」と広報するまでに危機は深まっている。

格差是正に苦闘する
労働組合の取り組みもあり労働契約法やパート労働法が成立し、ようやく非正規雇用労働者における不合理な差別待遇規制が強められてきた。
しかしその方向は、フランスのような入口における雇用契約締結時の有期契約規制ではなく、現状ある格差是正を主眼としたものになっている。
全国のコミュニティユニオンや合同労組を中心として、非正規労働者が次々と全国で有期雇用の不合理な労働条件是正に向けて裁判闘争をたたかった。
2010年代に入り、これら裁判で最高裁判決が次々に出され、司法判断の一定の方向性が示されてきた。
ニヤクコーポレーション事件、ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件、メトロコマース事件、日本郵政の多くの取り組み等々と呼ばれるものである。
これらの多くは労働契約に期間の定めのあることによる不合理な差別待遇を禁止する旧労働契約法20条を巡って争われた。
最高裁は、一部の手当て(通勤手当、皆勤手当など)において有期契約を理由とする差別待遇と認め是正を命じた。
しかし基本給、賞与や退職金など賃金の主要部分については判断を回避するか、有期と無期の職務内容の相違や配転の有無を理由として是正に後ろ向きの姿勢を示した。
また定年後継続雇用の有期労働者の待遇格差は、定年再雇用であることをもって格差を認めるという判断であった。
これを受けて経営者は安堵し、職務内容、労働契約や就業規則の一部手直しをし、同一の労働条件であれば格差は認められないという規制からの逸脱を図ることとなった。
また経営優位の最高裁判断という経営側司法の宣伝を受けてろくさま対策もせず不合理な格差を継続しているところも多い。
非正規の闘いはこれからだ
しかしニヤクコーポレーション判決で明らかなように、有期と無期に労働条件の実質的差異が無い状態での不合理な待遇格差は、明確に違法と判断されている。多くの中小ではこの点の認識が今も甘い。
また待遇格差が合法と判断された例を詳細にみれば、有期と無期の労働条件差異の個々の状況によっては違法と判断される場合もありうるものとなっている。
さらに2018年働き方改革関連法の成立の伴い。旧労働契約法20条とパート労働法が「パート有期労働法(以下法という)」となり不合理な格差是正が一段と進展する法改正となっている。
法9条では差別的取り扱い全般について禁止する規定となっている。職務内容や配転の有無などに有期と無期に実質的に差異のない場合はパートタイム有期雇用労働者であることを理由とする不合理な待遇格差に合理的な理由は無く違法としている。さらに条文中に基本給、賞与と明記し不合理な待遇格差を禁じる対象としている。
また法8条では職務の内容や配転の有無などに有期と無期に差異がある場合も、労契法旧20条より厳格に判断するよう求めている。待遇格差の理由の合理性を判断するにあたって、当該待遇の性質、目的に照らして適切と認められる事情を考慮して不合理と認められる相違を設けてはならない、何のことか分かりませんが、要は待遇差を考えるときに、よりその待遇の性質、目的を待遇毎に厳格に判断することを求めている。
そうすると上記最高裁判決はすべて旧労契法での判断なので、改めて現行パート有期労働法で争えばその結果は不明というほかない。
現に名古屋自動車学校事件最高裁判決(2023年)では定年後継続雇用の有期の待遇に関して、旧労契法20条の判断に即したと思われる下級審の判断が覆され差し戻されている。
有期と無期の格差の存在する、それぞれの待遇の性質、目的を具体的に検討、確定し均衡待遇とするよう求めている。
この裁判の先行きはいまだ不明だが司法の判断の方向は2010年代とは同一ではない。
パート有期労働法14条を活用して
さらに見逃してはならないのは法14条です。1項ではパート有期労働者雇い入れに際し、不合理な待遇格差是正などに向けた雇用主の行う雇用管理の改善措置の説明を義務付けている。
また2項では、有期と無期に待遇の相違があるとき、労働者から求めのあった時は①待遇の相違の内容と理由②待遇について決定にあたって考慮した事項、の説明が事業主に義務付けられている。
厚生労働省は2項をもって「パート有期労働者であることに起因する待遇に係る透明性、納得性が欠如していることを解決する」とうたっている。
加藤厚労大臣(当時)は2018年の国会答弁において、事業主が「十分に説明しなかったという事実は待遇の相違の不合理性」を証明するものであると述べ、裁判上の有力な証拠となることを示唆した。

労働者、労働組合はまずもって有期と無期の間のあらゆる待遇格差を再度洗い出し、業に棚卸させ一々に説明させることから始めよう。法も武器に。