カテゴリー
全投稿

働いて、働いて、働いてまいります(by高市)

「働きたい改革」の真の狙いは、時間外労働の上限規制緩和だ

高市首相は自民党総裁選挙に臨み、「働いて、働いて、働いてまいります」と宣言した。しかし、首相が身を粉にして働くという「頑張り」や「過労」の話ではない。その後に続いた**「働きたい改革」**という言葉を見逃してはならない。

高市首相は就任早々「日本成長戦略会議」を新設し、安倍政権が推し進めた「働き方改革」の見直しに着手した。その目玉が「働きたい改革」である。具体的には、現在の時間外労働の上限規制(月間100時間、年間720時間)の緩和や、裁量労働制の拡大だ。規制を緩和して「もっと働きたい」と訴えるが、一体誰が「もっと働きたい」と言っているのだろうか。戦略会議で規制緩和を主張しているのは経団連と日本商工会議所である。彼らの本音は「もっと働きたい」ではなく「もっと働かせたい」に違いない。過労死労働者の遺族は高市首相に「長時間労働を美徳に戻さないで」と抗議したが、これは決して杞憂ではないのである。

安倍首相の遺産「働き方改革」を崩す「働きたい改革」

これまで長時間労働是正の試みは遅々として進まなかったが、安倍晋三首相が推し進めた2018年の「働き方改革関連法」により、初めて労働基準法に罰則付きの上限が設けられた。これは労働時間法制の画期的な進展であり、保守派の代表とも言われた安倍氏が実現させた功績である。高市首相は「もっと働きたい人がいる」という論理でこの規制をなし崩しにし、安倍氏の功績を無きものにしようとしている。

「働き方改革」が抱える危うい到達点

日本の労働時間は労働基準法で規定されている。第32条には「1日8時間、1週40時間」を超えて労働させてはならないと明記されているが、労働基準監督署長に届け出れば延長できる「36協定(サブロクキョーテー)」という例外措置が存在する。

通常は「月45時間、年360時間」が目安だが、特別条項を設ければ「年720時間」まで延長可能となる。さらに、一時的な需要に対応するため、「月100時間未満」「2〜6ヶ月平均80時間以内」という基準が設定されている。

この基準こそが、いわゆる「過労死ライン」そのものである。 監督署が過重労働による脳血管・心疾患を労災と認定する目安がこの数値である。月100時間を超えるような労働をすれば睡眠時間が削られ、疲労が回復せず、疾患のリスクが急激に高まるとの医学的見地から算出されたものだ。

さらに自動車運転手については年間960時間という例外的な上限が設けられており、これは毎月80時間の時間外労働を前提としている。過労死基準を大きく逸脱しているにもかかわらず、運送業界はこの上限さえ緩和するよう強く要望している。

罰則付きの上限規制を設けたはずの「働き方改革」も、残念ながら「過労死してしまう」時間数を上限としているのが実態である。高市首相の「働きたい改革」は、この危うい上限さえもさらに緩和しようとするものである。

一方、首相の検討加速指示を受け、上野厚生労働大臣は「上限が過労死認定ラインであることを踏まえて検討する必要がある」と述べた。この発言には、従来の「働き方改革」と今回の見直しとの矛盾が垣間見える。

100年前のILO条約すら批准できない日本の現状

日本の時間外労働規制は、国際水準と比してどうだろうか。 1886年のメーデー暴動(シカゴ)などを経て、ILO(国際労働機関)は1919年に第1号条約で「1日8時間、週48時間」を定めた。ところが日本はこの第1号条約すら批准できていない。日本政府の説明では、現行の労働基準法上の時間外労働規制が、条約の求める「厳格な許可要件」に達していないためとされている。 つまり、「働き方改革法」をもってしても、100年以上前の国際基準に達していないのだ。高市首相は、ここからさらに逆行し、規制を取っ払って無制限の長時間労働を可能にしようとしている。

変遷する労働時間規制の歴史と「過労死」の出現

日本の労働時間の最低基準が初めて定まったのは、1947年の労働基準法である。しかし、時間外労働規制は事実上野放しに近く、経済大国化と共に「エコノミックアニマル」と批判されるほどの長時間労働が常態化した。

その後、1986年の「前川リポート」などを経て、1987年に週40時間制が法制化され、1994年に実施された。現在の現役世代のほとんどは週休二日制以外を知らない。 しかし、労働時間規制が進む一方で、この頃から「過労死」という言葉が社会に現れた。

この背景には、時間外労働が事実上青天井だったことに加え、週40時間制の実施と引き換えに、変形労働時間制や裁量労働制など「柔軟化」という名の規制緩和が進められたことがある。労働時間短縮に逆行する法改正が同時に進んだことも、過労死を象徴とする長時間労働につながった。

後戻りを許してはならない。労働組合の奮起を

この間、使用者に労働時間の適正把握義務や健康確保措置(医師面接など)が課され、長時間労働を規制する取り組みが進められた。これらは、「少子高齢化に対応し、経済成長と労働者の生活の質の向上を両立させる」という「働き方改革」方針の下に進められたものだ。

1990年代以降の新自由主義政策は、膨大な非正規労働者を生み出し、正規労働者には長時間労働など過重な負担を強いた。一方非正規労働者の低位な労働条件は労働力再生産さえ危うくし、少子化の一因となったといわれている。これは資本・企業の利益のみを追求した結果であり、社会の行き詰まりは明らかであり、軌道修正が必要な段階にある。

しかし今や国会の絶対多数を握った自民・維新政権は、「働き方改革関連法」でわずかに前進した上限規制を後戻りさせようとしている。政府は今春予定していた労基法改正案の国会上程を見送り、さらなる労働時間規制の「全面的な改悪」を目論んでいる。 同会議には連合会長も出席しているそうだが、労働組合の運動は大きく立ち遅れている。これは労働分野における一種のバックラッシュであり、日本社会をさらに壊す試みだ。総力を挙げて阻止すべき課題である。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です